127時間(2010年アメリカ・イギリス合作)

127 Hours

03年、ロック・クライミングを楽しんでいた27歳の青年アーロンが見舞われた事故をメインに、
127時間にも及んで、巨大な岩に腕を挟まれたまま動けなくなり、大きな決断をくだすまでを描いたドラマ。

これは実話らしいのですが、上映時間が短い映画であるにも関わらず、ひじょうに中身が濃い映画です。
前評判の高さは聞いていたのですが、これは確かに僕も大きく衝撃を受けた映画でしたね。

監督は『トレインスポッティング』、『スラムドッグ$ミリオネア』で高く評価された、
イギリス出身のダニー・ボイルで、彼は相変わらずユニークな映画を撮りますねぇ。
本作なんかも、今までありそうで無かったタイプの映画だと思いますねぇ。そういう意味では、貴重な作品です。

まぁ観る前には、かなり過酷な描写のある映画ですので、
血生臭いシーン演出が苦手な人は、特に映画の後半ではある程度の覚悟が必要なレヴェルです。

主人公のアーロンは幾度となく、生き抜くことにくじけかけます。
でも、僕はおそらくこれが現実だろうと思う。おそらく極限の状態になると、精神的に追い込まれて、
時に異様に強気になったり、異様に弱気になったりして、感情が行ったり来たりするだろう。
ダニー・ボイルはそんな極限に追い込まれた人間のありのままの姿を、実に上手く描けていると思う。

途中、主人公が水分を補給する術を失い、予め警戒して採尿してあったバッグを取り出すシーンがありますが、
厳しい現実ではありますが、やはりこれが現実だろう。ありきたりと指摘する人もいるでしょうが、
僕はこういうシーンを敢えて描くということは、人間が生きるということを表現する上で、とても重要なことだと思う。

そういう意味で、この映画はダニー・ボイルにとって、とても収穫の多い映画だったと思うんですよね。

主演のジェームズ・フランコは、僕は『スパイダー・マン』のハリー・オズボーン役でしか
印象に残ってはいなかったのですが、本作はほぼ独壇場の大活躍で頑張りましたね。
おそらく彼のキャリアの中でも、今後、一つのターニング・ポイントとなる作品だったのではないでしょうか。
特に映画の中盤は、ほとんど彼の独り芝居状態で、しかも閉塞的な環境でのみの芝居ですので、
さすがに生きるということに対する執着を、複雑な感情の中で表現したことに価値はあったと思うんですよね。

実はこの映画、撮影が3ヵ月ほどで仕上がるというスピードで完成したらしいのですが、
編集も急ピッチで進められ、クランクアップから約4ヵ月後のロンドン映画祭では既に上映されていました。

かねてからダニー・ボイルはアーロンの遭難映画を撮影したかったらしく、
おそらく彼の中で撮りたいビジョンは明確になっていたのでしょうね。だからこそ成し得たスピードだと思います。
(どうやら、アーロン曰く、洞窟の中の湖にダイブするシーン以外は全て事実らしい)

劇場公開当時、アーロンが何度も生きるためにナイフを取り出すシーンの衝撃が
大きな話題となっておりましたが、これは確かに僕も目を背けたくなるほどの生々しさでビックリしましたね。
でも、これもダニー・ボイルがここまで描けたということに、この映画の価値があったと言うべきだと思う。
前述したように、血生臭いシーン演出が苦手な人にはオススメできませんが、一つのドキュメントとして考えると、
やはりこういうシーンも目を背けずに直視すべきと考えますね。これはこれで、凄く深いシーンだと思います。

やっぱり、生きることに対する執念って、こういうことだと思うんだよなぁ。
勿論、生きていてツラいことが多いのは、僕もよく分かるし、僕も逃げたくなる現実と直視することはある。

だけど、世の中、やっぱり生きたくても、生きられない人って数多くいるし、
生きたいのに、“死”の今日ふと直面せざるをえない人って、数多くいると思うんですよね。
ただ、それって皮肉なことに運命だから、自分だけの力でどういうできない状況が多い。

まぁこの映画の主人公アーロンは自分の力で生きようとするわけなのですが、
彼がとった行動は、なかなかマネができるものではないだろう。僕なら、あそこまで頑張れないと思う。。。

でもね、人によって考え方が違うから、あまり強いことは言えませんが...
彼が持ち続けた姿というのは、フラフラしながらも最後の最後まで生きるということに執着したわけで、
何としてでも命だけは・・・と彼の思う姿というのは、僕は是非とも見習いたいなぁと思うわけです。
そんな姿こそが、この世に生を受けた我々の模範的な姿なのではないかと思うんですよね。
(まぁ・・・繰り返しになるけど、僕も同じ状況に陥ったら、彼と同じことはできないだろうけど...)

但し、一つだけ思うのは、遭難したときに彼が思う回想シーンの見せ方かな。
勿論、本編で描かれた内容も悪くはないと思うのですが、もっともっと断片的でいいから、
いろんな瞬間を彼が思い出すように見せて欲しかった。確かにあまり長々描くとクドくなるのですが、
この映画の場合、一つ一つの回想に持続性があって、家族や恋人との時間を思い出す。
確かにそういうこともあるでしょうが、おそらくもっと断片的な回想になるのが現実的だと思う。
そういう意味で、一見すると意味の通じない回想でもいいから、もっといろんな瞬間を見せて欲しかったと思う。

その中で、彼が如何に恵まれた時間を過ごしてきたか、
そして今、彼が置かれている状況が、そういった幸せとは真反対の状況であることを、より強調できたと思う。

これまでダニー・ボイルが人間を描くことに上手さを感じるということはあまり無かったのですが、
本作で執拗に主人公の生に対する執着を表現できたことに、大きな進化を感じましたね。
『スラムドッグ&ミリオネア』ほどの評価を受けてませんが、本作も素晴らしい出来です。

過去にも、サバイバルをテーマにした映画は数多く製作されていますが、
シリアスに押し通した作品として、おそらく現時点で最高の出来と言っていいと思いますね。

(上映時間93分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[G]

監督 ダニー・ボイル
製作 クリスチャン・コルソン
    ダニー・ボイル
    ジョン・スミッソン
原作 アーロン・ラルストン
脚本 ダニー・ボイル
    サイモン・ボーフォイ
撮影 アンソニー・トッド・マントル
    エンリケ・シャディアック
編集 ジョン・ハリス
音楽 A・R・ラフマーン
出演 ジェームズ・フランコ
    アンバー・タンブリン
    ケイト・マーラ
    リジー・キャプラン
    クレマンス・ポエジー
    ケイト・バートン
    トリート・ウィリアムズ

2010年度アカデミー作品賞 ノミネート
2010年度アカデミー主演男優賞(ジェームズ・フランコ) ノミネート
2010年度アカデミー脚色賞(ダニー・ボイル、サイモン・ボーフォイ) ノミネート
2010年度アカデミー作曲賞(A・R・ラフマーン) ノミネート
2010年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
2010年度アカデミー編集賞(ジョン・ハリス) ノミネート
2010年度ラスベガス映画批評家協会賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度インディアナ映画批評家協会賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度デトロイト映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2010年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞撮影賞(アンソニー・トッド・マントル、エンリケ・シャディアック) 受賞
2010年度ユタ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2010年度ユタ映画批評家協会賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度ユタ映画批評家協会賞撮影賞(アンソニー・トッド・マントル、エンリケ・シャディアック) 受賞
2010年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(ジェームズ・フランコ) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(ダニー・ボイル) ノミネート