サボテン・ブラザーズ(1986年アメリカ)

! Three Amigos !

『踊る大捜査線』の“スリー・アミーゴス”の元ネタとなった作品ですね。

1910年代にハリウッドで“スリー・アミーゴス”として3人組で活躍していた映画俳優たちが
悪党たちに荒らされる日々に苦しめられるメキシコの田舎町の人々から、本物のヒーローだと感じ違いして、
救済を願う手紙を出し、それを読んで新作映画の撮影だと勘違いしたことから始まるドタバタ劇を描いたコメディ。

劇場公開当時は酷評された面もあったようですが、その後にジワジワと評価する声が上がり、
一部ではカルト的な人気を誇ったコメディ映画で、スティーブ・マーティンの出世作となった作品でもあります。
それ以前に映画デビューはしていましたが、明らかに本作以降から映画界での仕事が増えたようですね。

個人的な感想を言えば、まぁ・・・つまらないことはないんだけど、絶賛するほどの楽しさではなかった。
良くも悪くもスティーブ・マーティン特有のコメディ・センスの塊みたいな作品なんだけれども、まだ彼のスタイルが
しっかりと固まっていないというか、やり方によってはもっと面白い映画では出来ただろうなぁと思えてならない。

監督を担当したジョン・ランディスも、82年の『トワイライトゾーン/超次元の体験』での
有名な事故でビッグ・モローらキャストから死者をだしてしまったことのダメージを抱えていましたからね。
ハリウッドのプロダクションもジョン・ランディスの復帰をアシストしていたとは言え、混沌とした精神状態だったようで、
本作なんかも、おそらくやろうと思えば、もっと大胆なことをやったのだろうけど、どこか中途半端に映るところがある。

良い意味で言えば、ユル〜い映画ではあるのですが、それが狙ってやったことには思えない。
本来的にジョン・ランディスがやろうとしていたのは、もっとドタバタしたギャグ炸裂するコメディだったと思う。

それが、スティーブ・マーティンにしても、チェビー・チェイスにしても、
持ち前のコメディ・センスを出し切れたとは言い難いかなぁ。本作が愛される理由もなんとなく分かるんだけれども、
これだったら、もっと他に面白く魅力的な映画があるなぁというのが本音。カルト的に愛されるほどのカリスマでもない。

まぁ、それでも出来の悪い映画というわけでもないとは思います。
ただ、非凡なものは感じないというだけで。アメリカン・ジョークを心の底から楽しめる人なら、十分に楽しめるでしょう。
“スリー・アミーゴス”のテーマ曲にしても、スティーブ・マーティンが無駄にが長く引っ張って、チェビー・チェイス演じる
ダスティーが「えっ、まだ伸ばすの!?」といった表情を見せたり、まだ自分の台詞にしていないせいか、
マーチン・ショート演じるネッドが決め台詞を忘れたりするシーンで、ニヤリとさせられる人なら、最後まで大丈夫。

正直言って、日本人の感覚とは違うところはあると思うので、このギャップはどうしても埋められない。
でも、そのギャップがあるから全く楽しめないかと言われると、そうでもないと僕は思っていて、
そのギャップを埋めようと思って、必死に観ない方が僕はいいと思うのです。少しユルく構えて観た方が楽しめます。

何もかも完璧を目指した映画とは程遠いので、チョットした部分に色々とツッコミを入れることで、
この映画の楽しさは出てくると思います。例えば、スティーブ・マーティンが実弾で左腕を撃たれるシーンがあって、
それまで山賊たちも映画俳優だと思っていただけに、「実弾を使うな!」と説教しに行くのですが、
そのシーンの後には、スティーブ・マーティンが撃たれたことは無かったことのように、もう触れられない。

あまりに●カ●カしい描写だし、いくらなんでもここまでガサツに映画を撮ることはないだろう。
ジョン・ランディスもこの辺りを観ると、本作の撮影にあたって、集中し切れていない部分があったのは否めないです。

逆にこういうところにツッコミを入れられて、それを楽しみに変えられるぐらいのユルさがあった方が楽しめます。

そう思って観ると、確かにこの映画は“宝石箱”のような映画でもある。
そもそも山賊のリーダーを演じるアルフォンソ・アラウが、ちっとも怖くない脅威の感覚が希薄なのですが、
「お前ら好きにやれ!」と言い放って、手下たちが田舎町の集落を焼き払う荒くれぶりは圧巻ですらある。
何故、これがここまで出来るのに、ギャグの一つ一つは中途半端な不完全燃焼感が強いんだ!と不思議だけど・・・。

本作では、何故か脚本にシンガソング・ライターのランディ・ニューマンがクレジットされていて、
実は映画の中盤に谷のド真ん中にある、“歌う木”は彼が演じているらしいのだ。これでは、誰なのか分からない(笑)。

80年代以降のランディ・ニューマンはソロ・ミュージシャンとしての仕事よりも、映画音楽の仕事を優先していて、
本作もその一貫だと思っていたのですが、どうやら公私で付き合いのあったスティーブ・マーティンらと、
1980年頃から本作の構想を練っていたらしく、脚本として彼の名前もクレジットされ、曲も提供している。
(オーケストラの曲を書いたのはエルマー・バーンスタインで如何にも彼らしい音楽で、これも秀逸)

本来であれば、西部劇の要素が強い映画ですので、ガン・アクションや馬を使ったチェイス・シーンなど
アクション的要素も力を入れるべきなのでしょうが、あくまでコメディ映画ですので、ほどほどといった感じです。
これも賛否はあるかもしれませんが、それでもクライマックスの村人たちの得意技、裁縫を駆使して、
山賊たちに対抗する手段をとるシーンなんかは、それなりに緊迫感があって、作り手も意識していたと思います。

ジョン・ランディスは元来、不器用なディレクターではないはずですので、アクションもイケるはずです。

俳優たちが、仕事の一環と思っていたのに、実は本物だった・・・みたいな映画の元祖とも言える作品です。
『ギャラクシー・クエスト』なんか、その典型例ですけど、そのモデルにもなった影響力から評価が高まったのかな。
正直、映画の中で描かれる映画界の内幕って、いつも甘いというか美化され過ぎている印象を受けるのですが、
本作はコメディ映画なせいか、そういう感覚はありません。ただ、クライマックスは少々出来過ぎた展開かも・・・。

“スリー・アミーゴス”が普通に強くって、山賊たちを撃退できる能力を持っていることにビックリで、
お世辞にもスティーブ・マーティンやチェビー・チェイスを観て、そうは思えないだけに、妙にアンバランスに感じる。
(そもそもスティーブ・マーティンって腕っぷしが強い役とか演じるのが、意外に好きのように見える・・・)

用心棒として雇われた救世主という意味では、『荒野の七人』とかを思い出させられますが、
あくまで喜劇なので、本作以前の映画の中ではどれとも似つかわしくない、新たなジャンルの映画という感じだ。
その中で、ジョン・ランディスなりに工夫を凝らしながら悪戦苦闘し、なんとか完成させたという印象があります。
おそらくスティーブ・マーティンもかなり口を挟んだことでしょうから、一筋縄ではいかない撮影現場だったでしょう。

だからこそ思うのですが、これがジョン・ランディスが好き放題に撮っていたら、
一体どんな映画になっていたのか?と疑問に思うのです。おそらく、もっとナンセンス・ギャグで溢れていたでしょう。
僕はこの映画の場合は、その方が面白かったかもしれないと思います。その方がインパクトは強いでしょうしね。

映画の前半は、酒場で“スリー・アミーゴス”がヤバい連中と勘違いされて、
ミュージカルのような歌や踊りを披露しても酒場の荒くれ連中が、引きながら見てしまうという異様さで、
「こんな感じでトントン拍子に進むのかな」と思わせておいて、山賊と対峙して“スリー・アミーゴス”が
現実に気付かされて、一気に焦るといった緩急の利いた展開が良かったんだけど、後が続いていかなかった。

この辺がなんとかなっていれば、終盤の展開にも面白さがつながっていたと思うんだけどなぁ。

それにしても無声映画を観て、これが現実のヒーローだと誤解するというのも、スゴい力技だ(笑)。
あくまで映画だから・・・ということではあるのだけれども、誤解が誤解を呼び、トンデモないことに巻き込まれる中で、
映画で自分自身が演じてきた、ヒーローとしての行動を選択するというのは、なんともハリウッド的ご都合主義(笑)。

しかし、これはそんなハリウッド的ご都合主義を逆手にとって、ギャグに変えた作品だとも思う。
それも含めて、ユル〜い姿勢で楽しむことができれば、この映画は愛すべき作品なのでしょう。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・ランディス
製作 ローン・マイケルズ
   ジョージ・フィルシーJr
脚本 スティーブ・マーティン
   ローン・マイケルズ
   ランディ・ニューマン
撮影 ロナルド・W・ブラウン
音楽 ランディ・ニューマン
   エルマー・バーンスタイン
出演 スティーブ・マーティン
   チェビー・チェイス
   マーチン・ショート
   トニー・ブラナ
   パトリス・マルティネス
   ジョー・マンテーニャ
   アルフォンソ・アラウ
   フィリップ・ゴードン
   ジョン・ロビッツ